~成年後見Q&A~
成年後見Q&A ~①成年後見制度の状況~
-成年後見制度は、認知症の方や、精神障がい・知的障がいのある方が、現在の能力・財産を活かしながら、終生その人らしい生活が送れるよう、法律面・生活面から保護し支援する制度-です。
平成12年4月1日から、介護保険制度と同時に新しくスタートした成年後見制度も、約10年が経過しました。
最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」資料によりますと、平成22年度の申立件数は合計30,079件で,対前年比の約9.8%の増加となっており、年々増加しています。このように、急速な少子高齢化にともなって、成年後見制度はこの10年で、手続きの迅速化や費用の低廉化等とても利用しやすいものとなりました。
しかし、その認知度と利用されている件数は「少なすぎる」状況と言われています。
同時にスタートした成年後見制度と介護保険制度は、車の両輪にたとえられています。介護保険を受けるためには契約を締結しなければならず、もしご本人が認知症の場合、成年後見制度を利用して成年後見人が本人に代わって契約等を行わなければならないからです。
この約10年で、成年後見制度の利用状況は(総人口1億2000万人に対して)約20万ほどですが、介護保険契約は約300万あり、成年後見制度を利用すべき方が利用できていない状況と考えられています。
成年後見Q&A ~②後見人を裁判所が選ぶのか?自分で選ぶのか?~
成年後見の利用をお考えの方には...例えば「父が脳卒中で入院したので、入院費に当てるために不動産の整理をしたい」というように、すでにご本人の判断能力が低下して「今すぐにでも支援を受けたい!」という方と、一方で、例えば「今は元気だけど、子供が遠方で暮らしているから又は一人暮らしだから、将来認知症等になった時のことが心配」というように、「元気なうちに、将来の判断能力の低下に備えたい。」とお考えの方がいらっしゃると思います。前を『法定後見制度』といい、後を『任意後見制度』といいます。
▶『法定後見制度』は、判断能力が低下した時に、家庭裁判所に申し立て、法律と裁判所の判断によって、ご本人の保護・援助の内容が客観的な視点から決定されます。ですから、ご本人の要望が必ず反映されるとは限らないのです(補助の場合を除く)。判断能力がどの程度不十分になっているかに応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型があり、裁判所によって、支援者(それぞれ「後見人」「保佐人」「補助人」)が選ばれます。
▶『任意後見制度』は、「判断能力が低下したときの援助内容は、自分で決めておきたい」「自分が信頼している人に、財産管理は託したい」とお考えの方が、判断能力のあるうちに、支援してもらう人との間で支援の内容を公正証書で契約しておくものです。その代わり、任意後見人は家庭裁判所が選任した任意後見監督人の監督をうけることになっています。
つまり、成年後見制度では、後見人を裁判所が選ぶ場合が『法定後見』、自分で選ぶ場合が『任意後見』です。このように、『任意後見制度』は、援助が必要となった場合でも“自分のことは、自分で決める”という自己決定権を最大限に尊重する制度です。ですから、10年前に成年後見制度がスタートしたとき、この自己決定権の尊重の理念をもった「任意後見」が導入されたことには、大きな意義があるのですね。
成年後見Q&A ~③成年後見制度利用の目安~
成年後見制度は、『任意後見制度』と『法定後見制度』に分かれます。
▶『任意後見制度』の利用については、「現在の判断能力に問題はないけれど、将来に備えて契約する方」が対象となります。
▶『法定後見制度』は、判断能力の程度に応じて、<後見><保佐><補助>の3類型があり、利用の目安は大まかに次のようになっています。
<後見>…「日常的に必要な買い物が自分ではできなくなった方」
「いわゆる植物人間の状態である方」「判断能力が全くない方」
<保佐>…「日常に必要な買い物程度は自分でできるが、不動産の売買・自宅の修繕・
高額なお金の貸し借り等、重要な財産行為は1人ではできない方」
<補助>…「重要な財産行為でも自分で出来るかもしれないが、
不安なので本人の利益を守るために誰かにやってもらった方がよい方」
年を重ねて判断能力が不十分になってくることは誰にとっても避けられないことです。後見制度は、判断能力が不十分になってきた部分を、任意後見人・後見人・保佐人・補助人が、ご本人が困ることのないように補います。
成年後見Q&A ~④任意後見手続きの流れ~
今は元気。でも、将来のことが心配。
任意後見制度は、将来の判断能力の低下に備えて、支援してもらう人との間で
支援する内容を決めて、あらかじめ契約をしておく制度です。
①契約の内容を決める |
契約に基づいて将来支援が行われます。ご本人のご希望・ライフプランなどを十分検討して、任せる事務の内容や範囲等について決めておきます。(※契約内容の例は下記の通りです)
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②任意後見契約を公正証書で結ぶ |
ご本人と支援してもらう人本人が、一緒に公証役場に行き、任意後見契約を結びます。ご本人の真意を明確にするために、公正証書とする必要があります。
任意後見契約を結んだこととその内容が登記されます。
後日、ご本人の判断能力が不十分になったとき、実際に支援が始まります。
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ご本人の判断能力が不十分になったとき |
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③任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てる |
家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。ご本人に代わって、裁判所が選任した任意後見監督人が、任意後見人の仕事をチェックします。
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④任意後見の開始・支援が始まります |
任意後見契約の内容に基づき、任意後見人による支援がスタートします。
※任意後見契約の基本的な内容
❍「財産管理」(例)預貯金の管理、年金・公共料金・税金の管理、ご自宅等不動産の管理など
❍「介護や生活面の手配」(例)要介護認定申請等の手続、介護サービス提供契約の締結、介護費用の支払い、医療契約の締結、入院の手続、入院費用の支払い、生活費の送金など
成年後見Q&A ~⑤任意後見手続きの費用と必要書類~
任意後見手続きには、どんな書類が必要でしょうか?
また、費用はどのくらいかかるでしょうか?
任意後見契約書(公正証書)作成 |
◆費用
公正証書作成手数料 |
11,000円 |
登記印紙代 |
2,600円 |
登記嘱託手数料 |
1,400円 |
任意後見人への報酬 |
契約の内容による |
※その他、正本等の証書代や切手代がかかります。
※(公証役場へ出向くことができない場合)公証人が自宅や病院へ出張する場合は、1.5倍に加算され、日当・交通費がかかります。
※任意後見契約と一緒に、通常の委任契約を締結する場合には、上記の他1~2万程度の費用が必要です。
◆必要書類
<ご本人>
□戸籍謄本
□住民票
□印鑑登録証明書
<任意後見受任者>
□住民票
□印鑑登録証明書
※その他の書類が必要な場合もあります
任意後見監督人選任の申し立て |
◆費用
申立費用(収入印紙) |
800円 |
登記印紙代 |
1,400円 |
郵便切手 |
2,980円 |
任意後見監督人への報酬 |
裁判所の決定による |
◆必要書類
□申立書及び付属書類等(申立事情説明書・ご本人の財産目録・収支状況等)
□任意後見契約公正証書の写し
<ご本人>
□戸籍謄本
□住民票
□登記事項証明書(任意後見)
□登記されていないことの証明書
□診断書(成年後見用)
<申立人>
□戸籍謄本
※各裁判所によっては、上記以外の書類が必要な場合があります。
成年後見Q&A ~⑥任意代理契約とは?~
まだ判断能力に不安はない。でも、今から支援を受けたい。
任意代理契約は、任意後見が開始する前(判断能力が不十分になる前)から、または任意後見が終了した後も、支援を受けるための契約です。
▶通常の事務委任契約「まだ判断能力に不安はないが、今から支援を受けたい。」
任意後見契約は、将来、判断能力が不十分になった場合に備えた契約です。しかし、判断能力はしっかりしていても、万一、足腰が不自由になったり、寝たきりになってしまった場合、生活面や財産の管理事務に不自由を感じることがあると思います。そのような場合のために、通常の『委任契約』を締結して備えることができます。判断能力が不十分になったときは、通常の委任契約に基づく事務から、任意後見契約に基づく事務へ移行します。両方を締結しておくことで、どちらの事態にも対処できるため安心です。実際には、このような通常の委任契約を、任意後見契約とともに一緒に締結する場合が多いのです。
▶死後の事務委任契約「任意後見が終了した後の支援もお願いしておきたい。」
任意後見契約は、ご本人がお亡くなりになると終了します。しかし、任意後見契約が終了しても、なお、事務処理が必要な場合があります。葬儀や身辺整理に関する事務を行う代理権を付与する契約をして備えることができます。
成年後見Q&A ~⑦法定後見手続きの流れ~
母が認知症になってしまった。今すぐ、支援を受けたい!
法定後見制度は、判断能力が低下して、ご自分で後見人等を選ぶことが困難になった場合に、家庭裁判所に後見人等を選任してもらい、その人に支援してもらう制度です。
①申立の準備(後見・保佐・補助のいずれに該当するか判断する) |
申立時の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3類型から選択します。どの類型で申立てをするかは、最初に医師が作成する診断書(成年後見用)が目安となります。申立書類の作成をし、必要書類が集まったら、申立日の予約をします。
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②家庭裁判所に申し立てをする |
家庭裁判所に後見等開始の申し立てをし、後見人等を選任してもらいます。申し立ては、ご本人の住所地の家庭裁判所にします。東京家庭裁判所では、申立当日に、申立人・成年後見人等候補者と面接を行い、詳しい事情を聞いています。
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③家庭裁判所が審判をする |
家庭裁判所が、後見等を開始するか否か・後見人等を誰にするかを判断します。
▶本人調査(調査官がご本人と面接をします)
▶親族への意向照会
▶鑑定(本人に判断能力がどの程度あるか医学的に判定する為に、申立時の診断書とは別に、裁判所が医師に鑑定依頼をする形で行います。後見・保佐は原則として鑑定が行われます。)
▶審理・審判 調査や鑑定が終了した後、後見等の開始の審判・後見人等の選任をします。監督人を選任することもあります。
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⑤法定後見の開始・支援が始まります |
審判が確定したら、後見人等による支援がスタートします。また、審判確定内容については、裁判所が東京法務局に後見登記手続きを行います。
※後見人等の主な仕事
(仕事の始まり)選任された後見人等は、まず報告書として本人の資産状況を把握して「財産目録」を作成し、生活の予定や収支の計画として「年間収支予定表」を作成して家庭裁判所に提出します。また、定期的に「財産目録」や「収支報告書」などを提出して家庭裁判所に報告する義務があります。
<後見類型>後見人は、本人の全ての法律行為を代理でき、日用品の買い物などを除く全ての法律行為を取消しできます。(具体的例)❍財産管理…本人の預貯金の管理、家賃の支払い、年金の受取りなど財産に関する法律行為 ❍身上監護…必要な介護保険サービス契約や入院契約など生活や療養看護に関する法律行為など
<保佐類型>保佐人は、本人が望んだ場合のみ、特定の法律行為(預貯金払戻し・不動産売却など)を代理でき、重要な法律行為(民法13条1項:お金の貸し借りや不動産売買など)についてのみ、本人が行う際に同意することや同意のない行為について取消すことができます。
<補助類型>補助人は、本人が望んだ場合のみ、特定の法律行為(預貯金払戻し・不動産売却など)を代理でき、本人が望んだ民法13条1項記載の行為の一部についてのみ、同意や取消をすることができます。